書物の聖母

『書物の聖母』
イタリア語: Madonna del Libro
英語: Madonna of the Book
作者サンドロ・ボッティチェッリ
製作年1480-1481年ごろ
種類板上にテンペラ
寸法58 cm × 39.5 cm (23 in × 15.6 in)
所蔵ポルディ・ペッツォーリ美術館ミラノ

書物の聖母』(しょもつのせいぼ、: Madonna del Libro)は、イタリアルネサンス期の巨匠、サンドロ・ボッティチェッリによる小さな絵画で[1][2]ミラノポルディ・ペッツォーリ美術館に所蔵されている。板上にテンペラで、1480年から1481年の間に制作された[3][4]

概要

『書物の聖母』は、聖母マリア幼子イエスが部屋の隅にある窓のそばに座っている、柔和で優美な作品である。聖母は時祷書の「Horae Beatae Mariae Virginis」を持っているが、これは13世紀から16世紀の間、一般的な民衆のための祈祷書であった。イエスは聖母が本を読むことに夢中になっている間、聖母を見つめている。母と息子の両手は同じように配置され、右手は祝福のジェスチャーのように開き、左手は閉じられている[3]

幼子はキリストの受難を象徴して、十字架の3本の釘と茨の冠を持っている。これらはおそらく後に追加されたものであり、メッセージをより明確にするためであった[5] [6]。これは、キリスト教図像における伝統的な表現である。また、ボウルの中の果物には象徴的な意味がある。サクランボはキリストの血を表すか、楽園を示唆する。プラムは聖母とイエスの間の優しい情を示し、イチジクは復活の象徴である[3]

聖母の衣服の青は[7]、聖母が身に着けている服によく用いられる色であり、純粋さ、天国、王族を象徴する意味を有している[8] [9]。本作では、ボッティチェッリの他の一連の大型作品と同様に、聖母は真剣で、思慮深く、意識を集中しているように描かれている。[10]

ボッティチェッリは、繊細さと細部への愛情を持って、場面を構築している。箱と、瑞々しい果物の入ったマヨリカ焼きのボウルは静物画として描かれている。本のページ、衣服、および透明なベールは、リアルな質感を示している[11]。バランスのとれた、洗練された構図である。ボッティチェッリは微妙に異なる色調で描いており、見事に互いに補完し合うように色彩を組み合わせている。絵画は衣服や物を縁取る細金細工で装飾されているが、金の使用は、画家が依頼者と締結した契約上の合意の結果であり、絵画の価格に含まれていた[注釈 1][6][11][3]。1480年頃に制作された本作は、ボッティチェッリの成熟した詩的な様式のすべての要素を示している。繊細で優雅な線描は、画家の晩年の作品の強い哀愁からは程遠い様式である[6]。誰が作品を依頼したかはわかっていない[4]

光、形体、空白部分の相互関係は、作品にきわめて優美な特質を与えている。 実際、最近の修復により、何世紀も前のニスの層によって隠されていた明るい空と明るい朝の光が明らかになった本作は、新たに再発見されたと見なされてもいいのかもしれない[12] [13]。1470年以前に制作されたボッティチェッリの他の聖母子像を想起させ、フィレンツェの捨て子養育院由来のフィリッポ・リッピの『聖母子と天使』に影響を受けた可能性がある[3]

ボッティチェッリ『書物の聖母』は、19世紀に新たな関心の対象となった。その「並外れた美しさ」で、作品はイタリア統一時代に国民的アイデンティティの源を見たイタリア人に特に訴えた(「リソルジメント」)[14]。ボッティチェッリの愛好者の中には、自身の個人コレクションと邸宅を公共のものとして遺贈したジャン・ジャコモ・ポルディ・ペッツォーリがいた[14]。ポルディ・ペッツォーリ美術館の館長であるアナリーザ・ザンニ博士は、『書物の聖母』に例示されているようなボッティチェッリの技術と材料の使用について、最近もっと多くのことを発見した。たとえば、ボッティチェッリの青の最上層がラピスラズリであることを発見したのである。これは「非常に貴重で非常に高価な成分であり、非常に威信のある顧客から依頼されたことを示している」[12] [13] [14]

作品は、イタリア、ミラノのポルディ・ペッツォーリ美術館に所蔵されている[注釈 2][3] [5]

脚注

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注釈

  1. ^ "Known also as the Madonna of the Book, this painting represents the Virgin and Child in a domestic setting, intent on reading a volume, perhaps a Book of Hours. A window is open on the landscape at twilight, but the diffused light which transforms the space into a mystical setting seems to emanate from the figures themselves.
  2. ^ A larger, more detailed copy is displayed at the Museum of Biblical Art (Dallas), Texas.[15][16]

出典

  1. ^ “Sandro Botticelli”. www.nationalgallery.org.uk. 2021年9月10日閲覧。
  2. ^ “Botticelli,_Sandro”. /universalium.academic.ru. 2014年12月4日閲覧。
  3. ^ a b c d e f “Madonna of the Book”. www.museopoldipezzoli.it. 2013年12月6日閲覧。
  4. ^ a b Malaguzzi & Botticelli 2004, p. 40.
  5. ^ a b “Madonna with Child (Madonna of the book)/ Casa Museo Poldi Pezzoli”. Milan is Tourism. Milano City (2010年). 2014年11月3日閲覧。
  6. ^ a b c “The Virgin and Child (The Madonna of the Book)1480”. Google Cultural Institute. 2014年11月3日閲覧。
  7. ^ “The Dayton University - The Marian Library International Marian research Institute”. campus.udayton.edu. 2006年9月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年12月5日閲覧。
  8. ^ “Madonna and Child /The artist here depicts Mary clad in her trademark blue robe. Mary is often portrayed wearing blue because blue represents purity, the virgin birth, and was often a color of royalty. /”. madonnaandchild.wordpress.com. 2014年12月5日閲覧。
  9. ^ “The famous blue. The history-of-color”. artelisaart.blogspot.se. 2014年12月5日閲覧。
  10. ^ “artists/sandro_botticelli”. www.artble.com. 2014年12月3日閲覧。
  11. ^ a b Backus, Emily (2011年11月30日). “Botticelli exhibit unveils surprises for art scholars: Show at Milan's Poldi Pezzoli museum gathers eight key works”. La Gazzetta del Mezzogiorno (Milan). オリジナルの2014年11月4日時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/20141104161418/http://www.lagazzettadelmezzogiorno.it/GdM_traduci_notizia.php?IDNotizia=386348&IDCategotia= 2014年11月4日閲覧。 
  12. ^ a b Onuchina (2011年4月1日). “Eight masterpieces by Botticelli in Milan”. ARTinvestment.RU. 2014年11月4日閲覧。
  13. ^ a b c “New light on Botticelli's beauty: Discoveries at the Poldi Pezzoli Museum, Milan”. University of Sydney (2012年3月13日). 2014年11月3日閲覧。
  14. ^ “Galleries and Exhibitions”. Museum of Biblical Art. 2014年11月6日閲覧。
  15. ^ “The Sincerest Form of Flattery and Botticelli's 'Madonna of the Book'”. Agnes Ashe (2013年9月19日). 2014年11月4日閲覧。

参考文献

  • Malaguzzi, Silvia; Botticelli, Sandro (2004). Botticelli. Ediz. Inglese. Florence: Giunti. p. 40. ISBN 8809036778. https://books.google.com/books?id=H7LQe7zAZRQC&pg=PA40 2014年11月3日閲覧。 

追加参考文献

  • Cox, Richard (May 12, 1985). The Botticelli Madonna: A Novel (Third Printing ed.). New York: Ballantine Books. ISBN 0345324773. https://archive.org/details/botticellimadonn00coxr 

外部リンク

  • Prest (2010年12月18日). “Madonna of the Book Botticelli”. Idle Speculations. 2014年11月3日閲覧。
初期の作品
1480年代
の作品
1490年代
以降の作品
  • 『キリストの哀悼(ミュンヘン)』(1490年–1492年頃)
  • 『聖母子と3人の天使』(1493年頃)
  • 『キリストの哀悼(ミラノ)』(1490年-1495年頃)
  • 『聖三位一体』(1491年–1493年頃)
  • 『書斎の聖アウグスティヌス(ウフィツィ美術館)』(1490年–1494年頃)
  • 『聖ヒエロニムスの最後の聖体拝領』(1494年-1495年頃)
  • 『誹謗』(1494年-1495年頃)
  • 『聖母子と幼児聖ヨハネ』(1490年–1500年頃)
  • 『ゲツセマネの祈り』(1495年-1500年頃)
  • 神秘の降誕』(1500年–1501年頃)
  • 『ルクレティアの物語』(1496年-1504年)
  • 『ウェルギニアの物語』(1500年-1504年)
  • 聖ゼノビウスの生涯の場面』(1500年-1505年頃)